昔、かごの担い棒を作って生活していたミサノ松は、木を伐りに山へ入りましたが疲れでついうとうととしてしまいました。名前を呼ぶ声でふと目をさますと、金色に輝く薬師如来が立っておられました。近づくと、すうっと遠くにいってしまい、また、近づくと遠ざかってしまいました。こんなことを何度も繰り返しているうちに高い山の頂上に立っていました。これは、薬師如来のお導きと、そこにお堂を建て、祭ることにしました。

 


 昔、有峰に大助と小助という大変力持ちの兄弟がいました。小助は山奥で伐った木を一人で担いできて、川に橋をかけるほどの力持ちで、村中の娘のあこがれの的でした。村の若い衆はおもしろくなく、酔わせて刺し殺しました。小助は「この村に米ができないようにしてやる」と叫んで息たえました。それから、有峰では米が実らないようになり村人は稗(ひえ)を食べて暮しました。
 有峰では気候が厳しく稲作に適さず、人々は稗を常食としていたのでこのような伝説が生れたのでしょう。

 


 有峰から西へ尾根をひとつ越えた山奥に、長棟(ながとう)という所があります。慶長年間、金鉱の採掘が開始され、のち亀谷金山の山師・大山佐平次により鉛山が発見され、江戸時代を通して栄えました。
 あるとき村人達が集まって祝い事をすることがありました。すると白、薄紫、紅色の衣装をまとった3人の美しい女性が現われ、すきとおる声で歌い優雅に踊りました。そのとき人夫の一人が酒に酔って女性たちに無礼な振舞いをしました。すると3人の姿は煙のように消えてしまい、まもなく鉱脈も絶えてしまったといいます。
 この3人の美女は、ミズバショウ、クガイソウ、ヤナギランの花の精であり、鉱山の守り神でもあったのです。
 
山に生える植物を粗末にあつかえば、いずれは私たち自身が自然から仕返しを受けることを、それとなく教えています。